集中とはつまり無敵

もう一年くらい散歩を日課にしている。圧倒的運動不足と減量のために始めた。軽いジョギングだろうと楽しいエアロビクスだろうと息が上がる運動の時点で継続力がガクンと落ちてしまうので、散歩が一番いいという結論になった。

一番ハードルの低い運動とはいえ、年がら年中何かしらの不安と戦っている人間は、散歩中にもその思考を発揮する。すれ違う人の視線が気になる。はたまた、あの骨格になりてえなあ……と道にいる人の体型を羨望する。暴走した車が歩道に突っ込んでこないか、右左折しようとする車に巻き込まれないかを横断歩道を渡るたびに心配する。歩行者信号が青なのに車がちゃんと止まっているか確認しないと進めない。などなど。

私が運動を続けていくためにはもう散歩しかないのに、散歩にまつわるいろいろな事象を考えたり警戒したりするせいでしんどい。散歩に出かけるときはいつも少し憂鬱。ただの散歩だからさ、と自分に言い聞かせながらなんとかやってきていた。

埒が明かないので、二ヶ月くらい前にメンタル面の不調を改善するために買った『セルフケアの道具箱』という本の中にあった「歩く瞑想」をやってみることにした。

歩いているときに足の感覚や、重心、筋肉の動きなどに集中する。別のことに考えが逸れたら、それに気づいて、また集中する。その繰り返し。

すると不思議なことに、今まで気になっていたことや不安だったことを全然気にしない状態を作ることができた。そもそも人の目とか車のこととかを覚えてない。視界には入っていたけど、自分の足の感覚ばっかり覚えてる。足、動く筒みたいだった。

あんまり長時間は逆に疲れるけど、とても心地いい時間だった。本来のフラットな状態の私はこうだった気がする……と思った。それがすごく嬉しかった。